しまなみ海道の東側、瀬戸内海に浮かぶ25の小さな島々で構成される愛媛県越智郡上島町。そのうち4つの有人島(生名島・佐島・弓削島・岩城島)からなる「ゆめしま海道」は、半日あれば走りきれるコンパクトなコースのなかに、瀬戸内サイクリングの魅力がぎゅっと詰まっています。
2022年春には、生名島と岩城島を結ぶ岩城橋が完成し、いよいよ全線開通となる「ゆめしま海道」。初心者はもちろん、しまなみ海道を走り尽くしたサイクリストたちにも注目されているこのコースの魅力を、瀬戸内エリアでサイクリングガイドツアーを催行する「瀬戸内案内舎たびたす」の渡辺裕樹さんに案内していただきました。
「ゆめしま海道」がある上島町の島々には、愛媛県・今治港や広島県の因島・土生港からフェリーまたは高速船で渡ることができます。なお今治港からの高速船(芸予汽船)は、時間帯によって自転車を積載できない便もあるので要注意です。
今回の取材では、因島・土生港からフェリーに搭乗し、生名島・立石港に渡りました。船上の時間はわずか5分程度です。
生名島に到着して驚いたのは、道を走る車の少なさ。島には信号機がひとつもなく、車をほとんど気にせずに自分のペースでサイクリングを楽しむことができます。
フェリーの搭乗手続きなどを行う「生名立石港務所」ではレンタサイクルサービスも行っており、クロスバイクやシティサイクル、2人用タンデム自転車など、19台の自転車を用意しています。「ゆめしま海道」は緩やかなアップダウンも多いので、サイクリング初心者の方は電動アシスト付自転車もおすすめです。
生名島の外周コースは、海岸沿いの平坦な道とみかん畑に囲まれた山道で構成されており、アップダウンはあるものの電動アシスト付自転車ならまったく問題なし。無理せず自転車を押して歩きながら、島の雰囲気を満喫するのも良いでしょう。
生名島の北西端には、夏はキャンプ客で賑わう「サウンド波間田キャンプ場」があり、その近くには上島町名物の「防波堤アート」があります。描かれているのは、かつてこの近辺に生息していたというスナメリクジラ。いまにも海に飛び出していきそうな躍動感あふれる壁画です。
この「防波堤アート」は、2019年に上島観光協会が主催したアートプロジェクトによるもの。公募で選ばれたアーティストと地元の高校生、ボランティアの方々が数日間かけてペインティングしたそうです。いまでは多くのサイクリストが立ち寄る人気の撮影スポットになっています。
そしてもうひとつ気になるフォトスポットが、広々とした瀬戸内海の絶景を背景にぽつんとたたずむバス停。地元民が利用する町有バスのバス停だそうですが、どこか浮世離れしたその姿に心惹かれ、写真に収めるサイクリストが続出しているそうです。
さらに期間限定で楽しめる迫力ある光景も。島の西側では、2022年春に開通予定の生名島と岩城島を結ぶ巨大な吊り橋「岩城橋」がつくられていく様子を間近で見ることができます。
「ゆめしま海道」のサイクリングを楽しんでいると、瀬戸内海の眺めが特に印象に残ります。ガイドの渡辺さんも「ゆめしま海道ほど眺めが美しく走りやすいコースはない」とのこと。
その理由のひとつが、波が穏やかな瀬戸内海の島々ならではの低い防波堤。自転車をこぎながらの目線でも悠々と海を眺めることができます。また隣の島との距離が近いのも「ゆめしま海道」の特徴。多くのサイクリストを悩ませる強風もほとんどありません。サイクリング初心者にはまさにおすすめのコースといえます。
立石港から生名島を半時計まわりに約半周すると、佐島へつながる吊橋・生名橋が見えてきます。佐島は1周約10km、人口は500人弱、島内にはスーパーもコンビニエンスストアもありません。「ゆめしま海道」サイクリングロードで訪れる島々のなかでもっとも小さく、独特の風情を感じることができます。
そんな佐島でガイドの渡辺さんが「ぜひお見せしたい」と案内してくれたのが、生名橋のすぐ近くにある「古民家ゲストハウス 汐見の家」。
約100年前、13歳で日系移民としてアメリカに渡り、その後医師として活躍した人物、ロバート・汐見の生家を、その子孫の西村暢子さんがリノベーションしたゲストハウスで、2016年のオープン以来、多くの国内外の旅人を迎え入れてきました。
「汐見の家」のオープン当初から管理人を務める富田桂子さんは、もともと海外のゲストハウスで働いていましたが、縁があって佐島に移住。この「汐見の家」に出会いました。「佐島ののんびりとした空気が好き」という富田さん。佐島での暮らしも6年目になるそうです。
「汐見の家」のシンボルでもあるのが、身体の芯まで温まる伝統的な五右衛門風呂。風呂釜の下に薪をくべて、お湯を沸かすところから体験できます。
古民家ゲストハウス 汐見の家
住所:愛媛県越智郡上島町弓削佐島299
ウェブサイト:http://shiomihouse.com/
佐島の北東には全長980mの弓削大橋があり、弓削島へ渡ることができます。弓削島は役場などもある上島町の中心地。ゆめしま海道のなかでも、カフェやショップなどのスポットがもっとも集まっているエリアです。
弓削大橋から自転車で1分程度。今治港へのフェリーも往航する弓削港エリアにあるのが、サイクリストのオアシスともいわれる「しまでCafé」です。
お店を営むのは、村上律子さん・友美さん親子。律子さんはもともと上島町職員として30年以上、弓削島のブランディングやプロモーション活動に精力的に携わってきました。「しまでCafé」もそうした活動、思いの一環として2008年にオープンしたお店です。
店内ではランチやケーキセットなどを提供していますが、おすすめのメニューはレモンポーク丼。レモンポークとは、上島町産のレモンを混ぜた餌で育った豚の肉で、さっぱりした脂身が特徴。同じく弓削島の特産品である海苔もまぶされており、磯の香りが食欲をそそります。
レモンポーク丼は上島町民にとってソウルフードのような存在。町内のいろんなお店で食べることができますが、律子さんいわく「しまでCaféのレモンポーク丼はコショウを少し効かせているのが特徴」とのこと。ちょっぴり大人の味わいのレモンポーク丼をぜひ味わってみてください。
しまでCafé
住所:愛媛県越智郡上島町弓削下弓削830-1
電話番号:0897-77-2232
営業時間:9:00~18:00(ラストオーダー17:30)
定休日:火曜
ウェブサイト:https://www.shimano-kaisha.co.jp/cafe/
弓削港エリアには、地元の陶芸作家による工房もあります。備前焼の窯元で修行した古川宗之輔さんによる「宗兵衛窯 陶房土土」は2017年にオープン。
古川さんの指導による陶器づくり体験ができるほか、併設のギャラリーでは、古川さんの作品を鑑賞・購入することができます。
陶器づくり体験は約1時間なので、サイクリングついでの参加も可能。ガイドの渡辺さんもサイクリングツアー中のお客さまと一緒にマグカップをつくったことがあるそう。
古川さんが心がけているのは「お客さまがつくりたいものをつくらせてあげる」ということ。作品づくりを純粋に楽しんでほしいという気持ちから、あまり手や口を出しすぎないようにしているそうです。
宗兵衛窯 陶房土土
住所:愛媛県越智郡上島町弓削明神326-1
電話番号:090-4494-3346
定休日:木曜
ウェブサイト:https://soubeegama.net/
弓削港エリアから海岸線に沿って「ゆめしま海道」を北上すると、因島とのフェリーが就航している上弓削港に到着します。
この港の近くにあるのが、美味しいベーグルが食べられる「Kitchen 313 Kamiyuge」。築100年以上の古民家の蔵をリノベーションした店内には、ベーグルのほか、食パン、焼き菓子などが並んでいます。
「Kitchen 313 Kamiyuge」のベーグルと食パンは、機械を使わず、すべて手ごねでつくられています。生地の仕込みから焼き上げまで、店主の宮畑真紀さんが一人で担当。毎朝2〜3時に起床して仕込んでいるそうです。
手ごねにこだわる理由をたずねてみると、「コンビニで何でも買える時代に、この歴史を刻んだ建物で、一つひとつ手を使ってこねて焼き上げるという作業を大事にしたくて」と、真紀さん。
「1日につくれる量はわずかです。それでも求めてくださる方がいて、喜んでもらえることがうれしい」と、ベーグルを愛おしく見つめる柔らかな笑顔が印象的でした。
ベーグルやマフィン、焼き菓子は店内のイートインスペースや庭先で、夫の周平さんによる自家焙煎豆のコーヒーと一緒に楽しむことができます。
Kitchen 313 Kamiyuge
住所:愛媛県越智郡上島町弓削上弓削313
電話番号:0897-72-9075
営業時間:11:00〜15:30
定休日:月・水・金・日曜
ウェブサイト:https://313.mystrikingly.com/
南北に細い形をした弓削島。島の北端には大森神社とその前で海に向かって建つ小さな鳥居があります。じつはここもサイクリストに人気の撮影ポイント。鳥居と堤防の間からちょうど海の景色が抜けて見えるので、自転車と組み合わせて、映える一枚を撮ることができます。
また道に沿って大森神社の裏にまわりこむと、気持ちの良い瀬戸内海の大パノラマとともに、色鮮やかな防波堤アート『天の花』が姿を現します。
小さな島々が寄り添い合う「ゆめしま海道」エリアのなかでも弓削島の北側は、珍しく広大な海の景色が楽しめるスポット。遠くにかすんで浮かぶ島々はまるで水墨画のよう。その景観を借景に、鮮やかに描かれた「天の花」は、思わず息をのむ美しさでした。
2022年春には生名島と岩城島を結ぶ岩城橋も完成し、全線開通となる「ゆめしま海道」。covid-19の世界的な流行によって、旅のあり方が見直されつつあるいま、家族や友人たちと三密を避けて、自然と触れ合うサイクリング旅に出かけてみてはいかがでしょうか。
しまなみ海道を中心に瀬戸内エリアでサイクリングガイドツアーを催行する「瀬戸内案内舎たびたす」ツアーガイド。
https://www.tabitasu.net/
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