アメリカCNNのトラベル情報ウェブサイトで「世界7大サイクリングロード」にも選ばれた「しまなみ海道」を擁する愛媛県。しかし、日本在住のプロサイクリスト、マイケル・ライスさんは「愛媛県の自転車道の魅力はそれだけではない」と語ります。
マイケルさんは、ロードバイクからMTBまで乗りこなすサイクリスト。ニュージーランドのロードバイクブランド「CHAPTER2」のアンバサダーも務めています。自転車で日本一周をしたこともある経験豊富なマイケルさんに、しまなみ海道以外の愛媛県内の絶景ポイントのほか、日本ならではの体験ができる道、海外から日本へ自転車旅にやって来るサイクリストへのアドバイスまで教えていただきました。
——マイケルさんは日本中いろいろなエリアを自転車で走っています。そのなかでも愛媛県はどのような印象ですか?
マイケル:しまなみ海道のサイクリングコースが素晴らしいのはもちろんですが、そのうえで私の印象に残っているのは、人がフレンドリーなこと。愛媛県のある四国には、約1,200年前から、八十八か所の寺院などを巡礼のために歩いて回る「お遍路さん」という文化があるんです。だからきっと昔から、旅人に親切な土地柄なのだと思います。
私が愛媛県を初めて訪れたときには、野宿をしていた私に屋根のある場所を教えてくれたり、「夕食は食べましたか?」と食べ物をくれたりしたことを覚えています。当時は来日したばかりで日本語をほとんど喋れなかったので、親切にしていただいたのはうれしかったですね。
また、サイクリング環境という面でも、愛媛県のサイクリングコースには道しるべとなる「ブルーライン」と呼ばれる青い線が丁寧に引いてあったり、店舗などにサイクルポートが設置してあったりと、日本の他のエリアと比較しても非常に整っています。
——愛媛県内のサイクリングコースのなかでも、北側の本州・広島県から南側の四国・愛媛県まで、瀬戸内海の6つの島々を橋でつないだ「しまなみ海道」は、海外のサイクリストにもよく知られています。マイケルさんの感じる「しまなみ海道」の良さとはなんですか?
マイケル:「しまなみ海道」は、自動車と分けられたサイクリングロードを走れるのが気持ちいいですよね。それに、なんといっても島と橋が織りなす絶景。
私は、四国側から見る橋の風景が、「しまなみ海道」のなかで一番美しいと思っています。愛媛県側の発着地からすぐの場所に、宿泊もできるサイクリングターミナル「サンライズ糸山」という施設があるのですが、そこに泊まったときに部屋の窓から眺めた景色はすばらしかったです。
——サイクリング上級者向けに、マイケルさんからおすすめの「しまなみ海道」の楽しみ方はありますか?
マイケル:縦断する場合は、広島県からスタートして愛媛県でフィニッシュすることをいつもすすめています。このルートなら、全長約4kmの「来島海峡大橋」を最後に渡りきってゴールすることになるので、達成感もひとしおでしょう。
サイクリング上級者であれば、来島海峡大橋を渡る手前で「亀老山」に登ってみるのもおすすめです。平均勾配が約8%と、きつめの坂が長く続くのでハードですが、頂上の展望台には苦労する甲斐のある絶景が待っています。
——世界、日本を問わずさまざまな道を走ってきたマイケルさんにとっても、やはり「しまなみ海道」の風景は格別なのですね。
マイケル:そうですね。でも、愛媛県の場合は海側だけではなくて、山側にも神秘的な道がたくさんあるんですよ。
例えば、「しまなみ海道」のゴール地点である今治市から、南西側に隣り合っている松山市まで続く国道317号線。深い森に囲まれた道を、森林浴を楽しみながら走り抜けられます。
マイケル:一方、愛媛県の南側・高知県との県境に横たわる山「瓶ヶ森」の尾根を走る「UFOライン(町道瓶ヶ森線)」は、視界がひらけていて、また違った気持ちよさがあります。標高1,300〜1,700mの尾根を渡っていくので、西日本最高峰の石鎚山(1,982m)をはじめ、どこまでも遠くを見渡せるんです。道も比較的まっすぐなので、スピードも十分に出すことができて、とても爽快感があります。
瓶ヶ森を含む愛媛県の南東部は、一帯が四国全体を東西に貫く四国山脈の一部になっています。「UFOライン」からさらに南西側に行ったところには、「四国カルスト」と呼ばれる高原が広がり、このあたりもまたサイクリングには気持ちいいです。石灰でできた岩がぽこぽこと覗き、神秘的な風景で、別世界にワープしてきたような感覚を覚えます。
——山側の魅力は海側と比べるとまだまだ世界では知られていませんが、せっかく愛媛県を訪れたらぜひ足を伸ばしてみたいですね。
マイケル:そうですね。先ほども触れたとおり四国は「お遍路」の地ということで、普通の道を走るだけでも神社やお寺にたくさん出会える。日本人にとっては日常の光景かもしれませんが、外国人の私にとっては面白く感じました。きっと海外からの旅行客の方々にも楽しんでもらえると思います。
——マイケルさんは、ロードバイクだけではなくMTBにも乗りますよね。オフロード好きにおすすめのコースはありますか?
マイケル:日本自転車競技連盟(JCF)が主催するMTBレースに参加した際、「八幡浜市民スポーツパーク」を何度か走りました。ここでは毎年、国際自転車競技連合(UCI)公認のレースが行われており、一般にも無料開放されています。森のなか、蛇行した急な坂道でのダウンヒルは、ハンドリングが上手いサイクリストにとっても高度なテクニックを要求されるレベルですが、私にはとても楽しかったです。
マイケル:八幡浜にはレースで訪れたので、体力温存のために周りを走ってみることができなかったのですが、じつはものすごく走りたかった道がひとつあって。
八幡浜は西側が海に面したエリアで、近くから「日本一細長い半島」といわれる佐田岬半島がまっすぐに伸びているのですが、その半島のつけ根から先端まで続く「鳥井喜木津線」という道があるんです。海を望む曲がりくねった道で、入り口を覗いただけで「これはサイクリストが喜ぶ道だ!」と思いました。近くを訪れた人はぜひ走ってみてほしいです。
——日本全国を自転車で旅しているマイケルさん。これから愛媛県を走る方に何かアドバイスはありますか?
マイケル:旅人サイクリストを見ていて感じるのは、荷物が多すぎるということ。日本の道はアップダウンが激しいので、最小限に収めたいところです。私の場合は、野宿でもテントはなしで寝袋だけ。また、日本の宿泊施設ではだいたい浴衣(カジュアルな、夏用の着物)を無料で貸してくれ、それを着て寝ることができるので、服はサイクリングウェアだけで事足ります。
アドバイスとしては、荷物を4分の1くらいに減らすこと。私は2、3週間の旅ならばリュックサックひとつ、4、5日であればウエストポーチひとつで旅することもありますよ。
——最後に、海外のサイクリストに伝えたい、愛媛県でサイクリングをする魅力についてお聞かせください。
マイケル:愛媛県は安心して旅ができるのが一番の魅力だと思います。私が初めて日本に来た約30年前、日本語がわからなくても、スマートフォンもGPSもなくても、楽しく走ることができました。日本は盗難の心配がほとんどありません。恵まれた環境のなかで、海に山に、多彩な自転車旅を楽しんでください。
日本在住のアメリカ人プロサイクリスト。アメリカの大学在学中に交換留学で来日した際、サイクリングで日本一周し、日本の自転車環境の良さに惹かれて東京へ移住。自転車競技は渡日後から始め、1998年からレースに参戦。一方、俳優や声優業も行い、NHK Worldのサイクリング番組『Cycle Around Japan』MCも務めるなどタレントとしても活躍中。
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