新型コロナウイルスの流行により、サイクリングの楽しみ方も変化を余儀なくされているいま。愛媛県は、世界的に有名な自転車ロード「しまなみ海道」をはじめ、風光明媚なサイクリングスポットを数多く抱える県として、感染防止のためのマナーを取りまとめた「SAFETY CYCLING」の普及・啓発を2020年6月から実施しています。
安全を最重視しながら、運動不足解消やリフレッシュにもなるサイクリングを楽しむためには、いったいどのようなことに気をつければよいのでしょうか? 今回は、「SAFETY CYCLING」の取りまとめに携わった愛媛県の河上芳一さんと、サイクリングファンのための情報ウェブサイト「シクロワイアード」編集長の綾野真さんに、「SAFETY CYCLING」の内容やWithコロナ時代の自転車マナーについて教えていただきました。
――「SAFETY CYCLING」とはどういった取り組みなのでしょうか?
河上:日本では2020年2月、3月頃から新型コロナウイルスの影響が出てきて、同時にサイクリストに向けたガイドラインが必要という声も聞くようになりました。その時点ではまったく未知の感染症だったので、何が正しいのか誰もが手探りの状態でしたが、世界でも自転車先進地域であるヨーロッパを中心に、競技連盟などが指針を発表していきました。それらの内容を参考に、愛媛県の状況に当てはめてつくったのが「SAFETY CYCLING」です。
具体的には「HEALTH」「GUARD」「KEEP」「CLEAN」「MINIMUM」という5つのキーワードから、サイクリング時に守るべきマナーを掲げています。
河上:例えば、ロングライドなどの走行時には、通常のマスクでは熱中症の恐れや、サングラスが曇るなどの危険があるため、おすすめしていません。走行中はサイクルショップなどで販売している通気性のよいネックウェアで口元をカバーし、「道の駅」などの休憩スポットに立ち寄る際にはマスクを着用する、といった心がけを大切にしていただきたいと思っています。
また、手洗いうがいなどの基本的な対策はもちろん、少数の仲間で車間距離を保って走行することも大事ですね。
——綾野さんも、ご自身が編集長を務める自転車のウェブサイト「シクロワイアード」で、2020年4月に「コロナ禍での自転車の乗り方」をテーマにした記事を掲載していらっしゃいましたね。
綾野:オランダ自転車競技連盟が3月に発表したガイドラインを中心に紹介した記事ですね。この記事にはアクセス数も大変多く集まり、サイクリストのみなさんが、コロナ禍におけるサイクリングのガイドラインをいかに強く欲しているかがよくわかりました。
この記事ではガイドラインのひとつとして、「#ridesolo(ひとりで走る)」という、ヨーロッパで生まれたハッシュタグも紹介しました。当初はこのように、「できれば乗らないのがベスト」「乗るなら一人で」が基本的な考え方として語られていました。
しかしそもそも自転車は、メカニカルトラブルなどのリスクを考えると、コロナ禍でなければ一人で乗るのは推奨できないもの。また、感染拡大からある程度の時間が経過しましたが、サイクリングが原因でコロナウイルスに感染したというケースは、私の知る限りまだ聞かれていません。そこで現在はヨーロッパも含め、ソーシャルディスタンスを守るなどの対策をしっかり行ったうえで、グループライドを再開する動きも出てきています。
――「SAFETY CYCLING」のように、コロナ禍でのサイクリングマナーを地方自治体が中心となって打ち出すというのは、珍しいケースではないでしょうか。
河上:愛媛県と広島県をつなぐ「しまなみ海道」は、橋でつながった島々をアイランドホッピングしながらサイクリングしたり、景色やグルメを楽しんだりできるコースとして年間約33万人のサイクリストが訪れます。その数は年々増えており、アジアはもちろん、アメリカやオーストラリア、ヨーロッパなどを含む海外からの訪問者の比率もここ数年で上がってきていました。
加えて、県内には他にも多くのサイクリングコースがあり、観光客だけではなく地元の方も自転車のある日常を楽しんでいます。そこで、県民に向けて、また県内を訪れるサイクリストに向けて、愛媛県として守っていただきたいマナーを発表することは不可欠でした。
――サイクリストとしては、「SAFETY CYCLING」のような安全マナーに対する呼びかけがあると安心ですね。
綾野:フランスのパリでは、2020年7月に開催予定だった『ツール・ド・フランス』が延期を余儀なくされ、8月末から国レベルで万全の感染症対策を行いながら開催されています。しかし感染第2波が来た状況で、3週間のレースが最後まで行われてパリに到着するか世界中が見守っています。
顕著なのは、市民の移動手段としての自転車が見直されていること。パリはもともと自転車が走りやすい街ではなく、改善をはじめようとしていた矢先に新型コロナの問題が勃発しました。そこでこれをきっかけに、密閉された空間である地下鉄への偏重を避け、オープンエアーの自転車をもっと活用できるようにしようと、専用レーンを整えるなど街づくりから変えていく方向へ舵をきっています。
きちんと対策を心がけさえすれば、ステイホームによる運動不足解消やリフレッシュにもなりますからね。
――たしかに、感染症による外出自粛という事態が起こったからこそ、自転車の価値を再発見できた気がします。
――綾野さんご自身は、サイクリングの際どういったことに気をつけていらっしゃいますか。
綾野:例えば、私の所属するサイクリングクラブでは、毎年埼玉から新潟まで300kmほど走ることに挑戦するイベントを開催しているのですが、今年は人数を制限し、走行中はグループごとに分かれて距離を取り、休憩中も面と向かって喋らないことを徹底しました。
宿も一人ひとり個室を予約し、走り終わったあとの打ち上げは、ソーシャルディスタンスを守った机の配置を取り、料理を個別に分けるなど入念な対策をとって実施しました。
——Withコロナ時代のサイクリングにおいては、サイクリスト側が細心の注意を払って工夫することが重要なわけですね。
綾野:そのとおりです。また、少人数で走るようになると、トラブルなどに自分自身で対処しなければならないケースが増えてきます。たとえばパンク修理などのテクニックを磨いたり、脱水症状に陥らない方法や、望ましい栄養のとり方を学んだり……サイクリストとしての実力アップもがんばってもらいながら、体調や体力に合わせてサイクリングを楽しんでいただきたいと思います。
——最後に、記事を読んでいるサイクリストのみなさんにメッセージをお願いします。
河上:サイクリングは健康に良く、自分の足で絶景に出会ったり、地域の資源を発見できたりする魅力のあるアクティビティだと思います。その楽しみを味わうためには、まず皆さんがコロナに感染しない、またご自身が感染している可能性を考え人にうつさない、という意識を持っていただけたら嬉しいです。感染予防は今後1年になるか2年になるかわかりませんが、長期的な視点で続けていくべきことだと考えています。
綾野:自分の身も、他人の身も守るという意識は大切ですよね。また、この時期に何の意識や対策もなく自転車で外出をしていると、厳しい目で見られてしまうこともあると思います。自転車に乗る人全体の利益を考えながら、思いやりを持って楽しんでほしいですね。
感染拡大の防止を考えると、いまはまだ、なかなか長距離移動はしにくい時期だと思います。そんななかでも、たとえば普段なら大規模グループで長距離を走るところを、近距離かつ少人数で、その代わりに複数回楽しんでみるなど、身近なところでサイクリングを楽しむことはできるはずです。いまはそれぞれが工夫しながら、上手にサイクリングを楽しむことが大事ですね。
サイクリングファンのための情報サイト「シクロワイアード」編集長。世界最高峰の自転車ロードレース『ツール・ド・フランス』には毎年赴き現地レポートを行っているほか、国内外の競技会でもフォトジャーナリストとして活躍。みずからも自転車を愛するサイクリスト。
愛媛県 企画振興部 政策企画局 自転車新文化推進課の課長。自転車を通じて健康、生きがい、友情を育む「自転車新文化」を創造するという理念のもと、自転車利用の普及・拡大や、交流人口の増加による地域活性化に取り組む。自転車をこよなく愛するサイクリストでもある。
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