台湾でニュースキャスターとして活躍していた魏華萱さんが仕事を辞め、サイクリストとしての活動を始めたのは12年前。スクープを追いかけ放映時間に間に合わせる、というかつての多忙な日々を振り返り、「ゆっくりと生きる道を自転車が教えてくれた」といいます。自転車と出会ってから、せっかちで一本気だった性格はかなり変わったそう。
日本へもサイクリングのため度々訪れており、最北端の北海道から、最南端の沖縄までを自転車で旅した経験がある魏さん。自身の自転車旅行の経験をふまえてまとめた書籍『GO! 日本騎車趣(GO! 日本自転車の旅、未邦訳)』も出版しています。
そんな魏さんに「忘れられない自転車旅は?」とたずねると、即座に挙がってきたのは愛媛県の「しまなみ海道」。経験豊富な魏さんに、日本での自転車旅の魅力や、しまなみ海道の楽しみ方を聞きました。
サイクリングで出会った自然や街との触れ合い、その思い出の数々が心の栄養になってきたという魏さん。自転車旅をこよなく愛する魏さんの目に、日本の自転車文化はどのように映っているのでしょうか?
魏:日本のサイクリング環境は素晴らしいです。ルート設計や交通ルール、道路標識などすべてが整備されており、外国人でも快適に安心して走れます。
魏:また、日本国内には、都道府県ごとに特色あるサイクリングルートが整備されているのもいいですね。例えば農家が経営している食堂や、海辺のカフェ、知る人ぞ知る洞窟や岩礁の風景など、小回りの効く自転車なら寄り道も自由自在。その土地ならではの風景や食文化など、多様な魅力に惹かれて、日本には何度も訪れています。
愛媛県の「しまなみ海道」には、これまでに3度訪れているという魏さん。しまなみ海道は、全長70km、合計7本の橋が、瀬戸内海に浮かぶ6つの島をつないでできています。愛媛県今治市と広島県尾道市を結んでおり、自動車、自転車、歩行者が通行可能。
自転車道は車道と平行に並んだり上下に分かれたりしますが、つねに専用のルートが設けられており、自転車用に緩やかな勾配の進入路もあります。紺碧の海、丘、連なる山々などさまざまな風景に出会うことができ、国際サイクリング大会も毎年行われ、台湾人はもちろん世界中からサイクリストが訪れるコースなのです。
魏:しまなみ海道は、温暖で雨の少ない気候もあってオールシーズンに適していると思いますが、私個人としては特に秋が最高です。柔らかな日差しを浴び、穏やかな潮風に吹かれながら無心になってペダルを踏んでいると、日常の悩みも洗い流されてしまいますね。
また、「しまなみ海道」でのサイクリングは、とにかく初心者にもやさしい。傾斜が緩やかでルートもわかりやすいですし、ルート沿いにレンタサイクルターミナルがたくさんあるので、疲れたら途中で乗り捨てしてバスに切り替えるのも自由。E-BIKEもレンタルできるので、体力に自信がない人も坂道や逆風を楽に走行できます。
また、自転車の故障などもしもの場合に備えた「しまなみ島走レスキュー」というサービスもあり、ガソリンスタンドなど幅広い場所でパンク修理などを行ってもらえたり、自転車を運べる「レスキュータクシー」を呼べたりと、バックアップ体制が充実しているんです。
私がこれまでしまなみ海道で出会った人のなかには、6歳の子どもを連れた若い夫婦や、のんびりと自転車を楽しんでいた84歳のおじいちゃんもいました。しまなみ海道は幅広い世代の人々が、山や海との触れ合いや大自然との対話を叶えられるルートなんです。
しまなみ海道のサイクリングで地元の魅力にたっぷり浸りたい人のために、今回、魏さんがおすすめのルートを紹介してくれました。
魏:私のおすすめコースは、まず愛媛県の今治市からスタート。瀬戸内海に面した今治市は、古くから海上交通の要所として栄え、江戸時代(1603年〜1868年)には今治城の城下町として発展した街。現在は造船やタオルの生産がさかんで、世界的に有名なタオルブランド「伊織」も今治が発祥です。肌触りが柔らかで吸水性がとても良いので、私も愛用しています。
今治市内でぜひ寄ってほしいのは、「タオル美術館」。館内には高級な生地や糸が展示され、紡織の生産ラインも見学できるほか、ヨーロッパ風の美しい庭園もあります。以前訪れたときに買った、今治市のPRキャラクター「バリィさん」のストラップは、いまも自転車のサドルの後ろにぶら下がって旅のお供をしてくれているんですよ。
魏:今治市内には、「今治駅前サイクリングターミナル」などいくつかのレンタサイクルスポットがあります。アイランドホッピングへ向けて最初の橋となる「来島海峡大橋」のたもと近くの「サンライズ糸山」もそのひとつ。ターミナルでは多言語の「しまなみ海道」サイクリングマップも配布しています。
「サンライズ糸山」からほど近い「糸山公園」の展望台は必見のスポット。3つの巨大な吊り橋が縦に連なる来島海峡大橋の全貌は、海の景色とも調和して見ごたえがあり、感動的です。
魏:来島海峡大橋を通って大島に到着したら、少し寄り道して「よしうみバラ公園」に行くのもいいでしょう。世界中から集めた400種、3,500本のバラが植えられており、5月中旬から12月末まで、季節によって違ったバラを楽しめます。
大島の次の伯方島には、ご当地グルメがたくさん。ひとつ目のおすすめは、道の駅「伯方S・Cパーク マリンオアシスはかた」で売っている、地元の特産品「伯方の塩」を使った「伯方の塩ソフトクリーム」。「伯方の塩」を練りこんだアイスの上からさらに塩がかけられていて、ほんのりとした塩味がアイスの甘さを引き立ててくれます。サイクリング中の塩分・糖分補給にもぴったりですね。
同じく「伯方S・Cパーク」の「焼豚玉子飯」もぜひおすすめしたいメニューです。甘辛いたれをかけた白ご飯の上に、焼豚とネギと半熟卵。シンプルなのに幸せな気持ちになれる、忘れられない味です。
日が暮れたら、伯方島の民宿で一晩ぐっすり眠りましょう。小さな島の海辺の夜景や風情も体験できますよ。
魏:2日目は、しまなみ海道最大にして見どころいっぱいの島「大三島」を探検してみましょう。春の花の季節には「大三島藤公園」がおすすめです。毎年藤棚が満開になる4月下旬から5月上旬には、まるで花の滝のような豪華絢爛な光景が広がります。
魏:また、そのすぐそばにある「大山祇神社」は海の神、山の神、戦の神を祀る由緒ある神社で、古くから信仰の地として有名です。日本全国に10,000社余りある山祇神社と三島神社の総本社でもあり、昔から各地の名武将たちが戦勝祈願に訪れていました。
魏:文化・芸術に興味がある人なら、「建築界のノーベル賞」ともいわれるプリツカー賞を受賞した日本の建築家・伊東豊雄の建築作品が見られる「今治市伊東豊雄建築ミュージアム」や、現代アート美術館の「ところミュージアム大三島」にも足を運び、作品と自然の風景の融合を楽しんでみるのもよいでしょう。
私が大三島を訪れたときは、生口島へとつながる「多々羅大橋」のふもとの「多々羅しまなみ公園」で、地元の漁師さんから新鮮な焼き牡蠣やみかんを買って、道中のおやつにしました。海の景色を眺めながら美味しいものを食べれば、自分へのご褒美になりますね。
1泊2日のアイランドホッピングの旅を終えたあとは、愛媛県に戻るもよし、広島県に向かうもよし。「瀬戸内海の旅は、自由気ままに楽しんでほしい。」と、魏さんは語ります。
魏:しまなみ海道の周辺は、自然、食、芸術、文化がすべて揃っているので、自転車旅行の初心者にぴったりです。
しまなみ海道からまわりの島々にさらに足を延ばせば、「とびしま海道」「ゆめしま海道」といったサイクリングルートもあります。日本でおすすめの18のサイクリングルートを紹介した私の著書『GO! 日本自転車の旅』でも、大三島の西に浮かぶ岡村島から広島県呉市までを結ぶ、とびしま海道を紹介しました。町屋や古い建築が多く、ノスタルジックな雰囲気を楽しめるルートなんですよ。
みなさんも、心の赴くままに自転車で散歩すれば、静かでゆったりとした島の生活に触れたり、自分だけの景色が見つかったりと、さまざまな愛媛を体験できるはずです。
台湾・台南市出身。台湾のテレビ局社員として6年間ニュースキャスターを務める。退社後にサイクリングやランニングを始め、旅番組のホストやスポーツウェアブランドのイメージキャラクターとして活躍。プライベートではマラソン、トライアスロンなどの競技にも参加。ファンからは魏小猴(ウェイ・シャウホー)の愛称で親しまれている。
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